2026/07/14

#COLUMN

【市場予測と戦略】「着工数激減」のニュースに怯えるな。縮小市場で生き残るための「フェルミ推定」と「限界棟数・組織」のコントロール

この記事の目次

  1. 1.全国のニュースを見て、漠然と不安を抱えていないか
  2. 2.フェルミ推定で考える「自社エリアで今動いているお客」のリアルな数
  3. 3.「多チャンネル時代」における消費者の厳格な選択
  4. 4.「売れ線」は見透かされる。本気の「好き」と「得意」だけが武器になる
  5. 5.ニッチを受け入れ、「限界棟数」と「組織規模」をコントロールせよ

全国のニュースを見て、漠然と不安を抱えていないか

「少子高齢化で住宅着工数が激減する」
「これからの住宅市場はさらに厳しくなる」——。
テレビや新聞を開けば、このようなマクロな視点での悲観的なニュースを見ない日はありません。

しかし、そんな「日本全国の当たり前の話」を聞いて、ただ漠然と不安を抱いているのは経営ではありません。
全国の着工数が減ることなど、何年も前から分かりきっていた事実です。

工務店の経営者が生き残るために直視すべきは、日本全体のパイの縮小という遠い世界の話ではありません。
「自分の商圏(エリア)において、今、自社のターゲットとなるお客様が『何組』動いているのか?」という現実の数字です。

フェルミ推定で考える自社エリアで今動いているお客」のリアルな数

「うちのエリアは人口が30万人いるから、ターゲットはたくさんいるはずだ」
そう錯覚していると、広告費をドブに捨てることになりかねません。

実際にあなたの会社で家を建てる可能性がある人が、今この瞬間に何組いるのか。
以下の計算式(フェルミ推定)を使って、リアルな数字を導き出してみましょう。

※フェルミ推定とは実際に調査することが困難な数値について、自分が知っている基本的な知識や常識をベースに論理的に推論し、短時間で概算値を導き出す手法です。

仮に、あなたの商圏エリアにおける「年間の新設住宅着工戸数」が1,000棟の地方都市だとします。

しかし、この1,000棟すべてがあなたのターゲットになるわけではありません。
ここから「自社の好み(世界観)」に合わない層を除外する係数を掛け合わせます。

 注文住宅(持ち家)比率:
賃貸アパートや建売住宅を除外します。仮に全体の40%とすると、注文住宅を建てるのは年間400棟です。

 価格帯(価値観)比率:
「とにかく安ければいい」というローコスト層を除外し、デザインや性能にしっかりとお金をかけられる層(自社の競合となる層)に絞ります。
仮に50%とすると、年間200棟になります。

つまり、このエリアにおいて、あなたの会社が本当に相手にすべき「自社の顧客対象となり得る年間着工棟数」は、年間200棟しかないのです。

これを月間に換算してみましょう。
月間の契約数: 年間200棟 ÷ 12ヶ月 = 約16.6棟

月に16組のお客様が、エリア内のどこかの住宅会社で契約のハンコを押していると考えられます。

リアルに動いている検討客数は、住宅の検討(比較)期間を仮に「3ヶ月」とするならば、今この月にネットで情報を探したり、見学会に行ったりしてリアルに動いているお客様は、月間16組 × 3ヶ月 = ざっくり50組となります。

いかがでしょうか。
地方都市であれば、今月家づくりを真剣に検討しているあなたのターゲット層は、月にわずか50組〜100組程度しか存在しないというのが、冷酷なマーケットの真実なのです。

「多チャンネル時代」における消費者の厳格な選択

ターゲットの母数が月に50組しかいないと聞くと、絶望的に聞こえるかもしれません。

しかし、だからといって「少しでもパイを広げるために、万人受けする無難な家もラインナップに入れよう」と考えるのは、現代のマーケティングにおいて絶対にやってはいけない悪手です。

メディア先進国であるアメリカのテレビ業界を例に考えてみましょう。アメリカでは何百、何千という膨大なチャンネルが存在する「超・多チャンネル化」がとっくに当たり前になっています。

そこでは「視聴率20%の国民的番組」などほぼ存在せず(アメフトのスーパーボウルは別)、「視聴率がたった1%でも、その番組を熱狂的に愛してくれるファンがいればビジネスとして大成功する」というニッチメディアの世界が確立されています。

現在の日本も全く同じです。YouTubeやInstagramなどの普及により、誰もが膨大な情報の中から「自分の好きなもの、自分の価値観に合うものだけ」を能動的かつ極めて厳格に選ぶ時代になっています。

情報があふれかえるこの時代において、消費者は「自分にぴったりのもの」を見つける能力が異常に高まっています。

だからこそ、工務店が昔のように「どんなテイストの家でもできます」「ご要望にお応えします」という八方美人のスタンスをとることは、「誰にとっても一番のお気に入りにはなれない(誰にも刺さらない)」ことを意味し、結果として誰からも選ばれなくなってしまうのです。

「売れ線」は見透かされる。本気の「好き」と「得意」だけが武器になる

この時代に選ばれるためには、「私たちはこれができます」「これが圧倒的に得意です」という強烈なメッセージ(エッジ)を打ち出さなければなりません。
そしてその時に最も重要なのが、提供する商品(住宅)を、社長やスタッフ自身が「心底好きで、信じ抜いていて、絶対の自信を持っている」ことです。

「今は平屋が人気だから」「この北欧デザインが他社で売れていると聞いたから」といった理由で、自社の本質的な哲学を無視して用意した付け焼き刃の「売れ線商品」。

そんなノウハウで作られた家は、本当にそのテイストを愛している感度の高いお客様の前に出せば、一瞬にして見透かされます。
言葉の端々や、細部のディテールに対する熱量が圧倒的に足りないからです。

本当にそのテイストが好きでこだわり抜いているお客様と対峙し、数千万円の契約をいただくためには、工務店側もその家づくりを狂気的なまでに「好き」でなければ、到底戦うことはできません。

私の失敗例になりますが、自社のクライアントが特徴的なデザインの住宅を導入することになりました。
確かに他のエリアの事例を見ると、そのデザインテイストは一定数のファンがいるため、市場の上澄みを刈り取るだけでも短期的な収益効果は高いと判断してましたが、結果は散々でした。

そのクライアントが勝負するエリアには、小規模ながらもそのデザインテイストが本当に好きな工務店が存在していたんです。
規模や会社の信用力は圧倒的にクライアントの方が高いのですが、お客様からすると自分の好きな世界観を作ってくれるのは、本当にそのデザインを愛する競合他社です。

偽物は本物に勝てないのだなと痛感しました。
これからの時代、あなたが好きなものが勝負を決めます。

ニッチを受け入れ、「限界棟数」と「組織規模」をコントロールせよ

もし、社長であるあなたが心から愛し、自信を持って届けたいと思う住宅のテイストが非常にニッチで、先ほど算出したエリアのパイの中で、それを好む人が「年に10組」しかいないのだとすれば。

経営として直視すべきなのは、それが、今のあなたの会社の新築事業における『限界棟数(MAX10棟)』であるという冷徹な事実です。

その10棟の枠を飛び越えようとして、昔のように「少しでも多くの人にウケる売れ線の商品」を無理に用意したり、テイストを広げたりしようとするのは、多チャンネル時代の今、完全に自滅行為です。

自社の強みが薄まり、本来なら熱狂的なファンになってくれたはずの「10組」すらも逃してしまう結果になります。

自社の「好き」と「得意」を極限まで研ぎ澄ませる。

そして、エリア内に確実に存在するそのニッチな10組に強烈に刺さるメッセージを放ち、10棟を確実に、高単価・高利益率で受注し切る。

これこそが、情報過多で市場が縮小していくこれからの時代において、工務店が生き残るための真の生存戦略なのです。

そして、経営者としてこの「自社の限界棟数」を正確に理解することこそが、今後の工務店経営において最も重要な組織規模と運営の最適化(コントロール)へと直結します。

自社のターゲットの限界が年間10組だと分かっていれば、売上を無理に追って無駄に人を雇い、固定費を膨らませる必要はありません。

10棟を最高品質で提供しつつ、スタッフが疲弊せずに最も運営しやすい筋肉質な組織規模(適正な社員数とアウトソーシングの活用)をあらかじめデザインすればよいのです。

市場のパイが縮小することに怯えるのではなく、自社の限界棟数を直視し、それに合わせて組織の規模と利益を完全にコントロールする。
価格競争という泥沼から抜け出し、地域で永続して選ばれ続ける企業になるための第一歩。
それは、自社の「意味」を再定義し、身の丈に合った最強の組織を創り上げることから始まります。

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